10 祭りの夜

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 10ー8 終わらせるため  「それでルキエルは、あんな姿なんだ、私は、てっきり他の精霊と同じ感じなんだと思っていた」  私は、へぇっとなんとも思わずに言ってしまった。だが、デミルさんは、聞き逃さなかった。  「精霊ですって?」  がばっと立ち上がって私の肩を掴んだデミルさんが問いただす。  「もしかしてあなたには、精霊が見えているんですか?」  あ、これってヤバいかも。  後悔先にたたず?  私は、デミルさんからそっと視線をそらした。  しかし、デミルさんの追求は止まらない。  「どうなんですか?ユイ様。あなたは、精霊が見えているんですか?」  デミルさんが肩を掴んでぶんぶん揺するもんだから私は、目が回って。  「やめ、やめてっ!言うから!」  私は、デミルさんの手を止めさせるために白状してしまう。  「精霊なら、見えるから!」   「ほんとに?」  デミルさんがぶんぶんするのを止めて涙ぐんだ目で私を見下ろした。  ああ。  私は、すっかり罪状をゲロった犯人の気持ちだった。もう、この後、カツ丼出てくるやつだ。あ、カツ丼食べたい。  私は、今度、カツ丼をルシアさんに作ってもらおうと決めていた。焼いた肉も、煮込んだ肉もいい。だが、やはり揚げた肉もいいのだ!  デミルさんは、椅子に座り込むとほろほろと泣き始めた。  ええっ?  何?この人、情緒不安定?  そうか!  泣き上戸なんだわ!  と思っていると、前に座っているウルダムさんも涙ぐんでいる?  何?  この人たち。  私は、困惑してエリクさんを伺った。エリクさんは、2人を黙って見つめていたが、やがて、口を開いた。  「ユイがただの聖女ではないことは、わかっていた。きっと、大聖女に値する力を持っていると思っていた。すぐにお前たちに・・少なくともウルダムには、知らせるべきだった。だが、私は、知らせなかった。それは、私のわがままだ。許してくれ」  2人がエリクさんを見る。  ちょっと責めるような2人の眼差しにエリクさんは、顔を伏せた。  「私は・・幼い頃から無能な王子とされてきた。当然、弟たちに与えられるものも私には、何も与えられることはなかった。だから、私は、いっそ、すべてを捨てて『ヴェータ』沼へと来た。己を終わらせるために」  はい?  エリクさん、終わらせるためって・・  私は、信じられない思いでエリクさんを見た。私が知っているエリクさんは、そんな感じじゃなかったから。  エリクさんは、魔法が使えなかったかもしれないけど、いつも他の人のことを思いやっていて優しかった。私のことだって、突然、ここに落ちてきた謎の女を助けてくれた上、自分の家に住まわせてくれたし。  とにかく、エリクさんは、いい人で!そして、何より、イケメンっぷりがハンパない!  いうなら、国民の宝といってもいいんじゃない?ってぐらいのイケメンなんだから!  「だが、この『ヴェータ』沼は、こんな私をも受け入れてくれた。私もここでなら普通に生きていけると思った。それでも私は、死を忘れることはできなかった。そんなある日、ユイが突然現れたんだ。彼女と暮らし始めてからというもの、毎日驚かされることばかりだった」
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