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2ー8 小さなことからコツコツと
「うん?」
キンドさんが悪い顔をして微笑んだ。
「君は、素直で可愛い人のようだ」
かわいい?
私は、脳天から何かが突き抜けるような感覚を覚えた。
私がかわいい、ですと?
そんなこと今までに言われたことがない。生まれて17年ほどになるけど異性同性含めて誰からもかわいいとかいわれたことがない。
私を評する言葉は、『お主も悪よのう』的な言葉だったような気がする。いや、私は、別に悪ではないが。
もしかしてこの人、そんなに悪い人じゃないのかも。
エリクさんが私に囁いた。
「騙されるな!タザキ」
エリクさんは、私の肩を掴んで顔を覗き込む。
「この男は、恐ろしい男だ。君をきっと不幸にする」
うーん。
私は、悩んでいた。
貧乏で甲斐性のないイケメンか、腹黒くて危険な匂いがぷんぷんする金持ち、たぶんね、イケオジか。
『そこは、悩むんですね』
ルキエルが口を挟むので私は、奴を無視した。私が呼んだときに無視したお返しだ。
私は、ここ数年で1番頭を使っていたが、どちらを選ぶか決められなかった。
『いや、そこは、エリクでしょう』
外野がうるさいが、私は、気にしなかった。
確かに、異世界スローライフを極めるならエリクさんだろう。でも、ほんと、ここの暮らしキツすぎる。ってか、別にスローライフなんて望んでないし。
「タザキ。いい名だ」
はい?
私は、目を丸くした。
いや、それも初めて言われた。
田崎なんてよくある名前だし。というか、なんでみんな、私のこと名字で呼んでるの?異世界ってそういうもん?
「私のもとに来れば君の力も存分にいかせるだろう。この『ヴェータ』沼のためにもなる」
イケオジ、キンドさんが切々と訴えかけてくる。
「君もわかるだろうが、ここは、地獄だ。君は、この地獄に現れた唯一の希望なんだよ、タザキ」
また、だ。
私は、心の中で舌打ちする。
だから、なんで名字呼び?
「私の名前は、タザキでなくユイです。タザキは、姓なんで」
私は、思いきって指摘することにする。こういうことから正していかなくては。
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