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【起】王様の舌
『王様の舌は真っ黒け。まるで悪魔の舌のよう♪』
その街では、子どもたちが物騒な歌を唄う。
歌に登場した王様とは、その子どもたちが暮らしている街の城にいる、国王グレモラのことだった。王様の舌は真っ黒。童歌だけではなく、大人たちの間でも噂される国王の謎。
なにせ、常に口元が布で覆われており、国王の口元を見た国民はいないという。
それに加えて、”他に類を見ない程に毒舌”な王ということで有名だった。
ときに、牧場で豚を育てている夫婦が今年の出来を献上するために謁見をしたときのこと。王は二人の姿を見るなり、こう吐き捨てるように言った。
「どうしたお前たち、どちらもブクブクと太って。良い豚を見分けるのが得意なのは夫の方か? それとも妻の方か? オスは去勢されるだろうから、夫は浮気の心配をする必要が無くてよいな?」
王は誰彼構わずに毒を吐く。
これでは"悪魔”と罵られても仕方のないことだった。
この毒舌に慣れていない者はその場で泣き出したり、あるいは怒りで赤面するのを通り越して、その場で卒倒してしまうのだとか。しかし――王は気に入った食材を献上されると、大臣に命令して大量の金貨を持ってこさせるのだ。
「少しは運動をした方が早死にしなくて済むぞ。せいぜい長生きして、最高の豚を我に献上し続けるがいい。そのためなら幾らでも援助してやろう」
グレモラは食に関しては金を惜しまないことでも有名だった。
王の舌を満足させることができれば。そして、この毒舌に耐えることができれば、貰えるものはきちんと貰えるのだ。それが分かっている国民たちは、故に辛抱して聞き流す。実力は認められているのに貶されるという矛盾に、誰もが複雑な気持ちになりながら。
国の者たちは、そんな王を敬いもし、同時にひどく恐れていた。
それは先代の王の子、5人のうち――彼だけが唯一生き残ったから。
生き残ったグレモラが即位し、新たな君主となったからである。
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