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いつもの時間なら、シャッターの閉まっている店も多い駅前の商店街をキョロキョロと見回しながら通り過ぎ、早足に動物病院のある住宅街へと向かう。
一応お金は多めに下ろしてきたとはいえ、保険適用外の動物の治療費はいかばかりかと村瀬は緊張していた。
「……こんばんはー?」
「ああ、村瀬さん、お仕事早く終われたんですか?」
「……はは。終わってはないですけど、終わらせてきたとでも言いますか、ね」
「気にしなくても良かったのに」
「昨日も遅くに開けていただいたんで、申し訳ないですから」
昨夜と同じように感じのいい動物病院の先生は「ちょっと待ってて下さいねー」と奥に入っていった。そして一つケージを抱えて戻ってくる。
村瀬がケージを覗き込むと昨夜の野良猫が角に丸くなっていた。
「一応怪我の処置と、化膿止の薬ですね。この子環境変わっても暴れたり怯えたりあまりしませんでしたね。薬もちゃんと口にしてくれるし、肝が座ってるのかな。さすがにカラーは嫌がりましたけど、舐めちゃうといけないからしばらくは取らないで下さいね」
先生の話を聞きながら、そこまで徹底的に注意しなければいけないわけではなさそうで村瀬は少し安心していた。
朝のうちに大家の老夫婦にも怪我をした猫を一時的に保護する許可を得ていたし、元気になるまで少し世話をするだけなのだから。と言っても不安がない訳ではない。自宅で動物を飼うのは人生初だったのでメモを片手に村瀬は先生に質問をしまくる始末だ。
「それはそうと、村瀬さんが里親探しされるということでしたけど、大変そうなら……うちと提携している保護団体もありますから声かけて下さいね。ケージやグッズは一旦お貸ししますから」
本当に何から何まで気にしてくれるいい先生だな、などと思いながらケージを揺らさないように抱えて村瀬は歩く。今、このケージの中で猫はどんなことを考えているんだろうなどと思いながら。
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