1.保護した野良猫

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「おいおい、怪我してるのか。大丈夫か?」  村瀬は言葉が通じるわけもないのに声をかけ、怖がらせないようにゆっくりと手を伸ばす。まずはゆっくり人差し指を一本。耳を後ろに倒しながらもスンスンと匂いを嗅ぐ仕草をした猫は、なかなかに鋭い目つきをしていた。けれど、意外にも威嚇してくることもなく村瀬に捕獲されてくれた。  それだけ弱っているということだろうか……と村瀬は少しばかり心配になる。   「夜間開いてる動物病院……検索して、この近くにあるといいけどな」    検索してみると、幸いなことに歩いていける範囲に評判の良さそうな動物病院を見つけた。本来は閉院している時間だが、一報いれれば開けてくれるらしい。    急いで連絡を入れ、村瀬が動物病院に野良猫を抱えて連れて行くと、腹の怪我は見た目より傷は浅くて、骨折なんかもないとのことだった。感じのいい動物病院の先生は疲れ切った村瀬の心配もしてくれつつ、「この子は一応一泊は病院で様子をみますね」という。猫のことは病院に任せたら安心かと思い、村瀬は連絡先を書いて帰ってきた。   「すっかり酔いが醒めちゃったなぁ……でもアイツが無事だったからいいか。私の飼い猫って訳じゃないけど放置するのも寝覚めが悪いし」    村瀬はボロアパートに帰ってきてベッドにひっくり返ると1人天井に向かって呟く。一人でも『私』と言ってしまうのはもはや癖だ。何も考えずに失礼にならないようにが染み付いてしまったのと、気安い友人もいないせいで切り替えることがなかったせいだろう。    ――猫……猫か。動物なんて久しぶりに触った気がする。そんな余裕全然なかったからな。私も小さい頃は動物が好きだったんだ。飼育係なんかにもなったりして……。ああ、それから、裏の……林で……――    いつものように村瀬は疲労で寝落ちする。酔いは醒めてはいたが、動物病院に行っていつもより歩いたし時間も遅くなっていたので目を閉じたと思ったら寝入るのはあっという間だった。  村瀬はもう何年も自宅でゆっくり食事をしたり自分の時間を持ったりなどしていない。そんなことはわかっているのだが、日々の生活ではそんなことすら考える余裕がなかった。
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