2.動物病院へ

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2.動物病院へ

 翌朝もいつもと同じように目覚ましで叩き起こされる。なかなか開かないまぶたを擦りながら熱いシャワーを浴びて「いつもの一日が始まる……」と憂鬱になる。  ただひとついつもと違うのは、今日は仕事の帰りに動物病院に猫を引き取りに行かなくてはいけないということ。いつもより残業できないから、もしかしたら上司から嫌味の一つでも言われるかもしれない。そう思うとより憂鬱になりそうになるが、それは考えないようにして、ざっと床に散らばった物を片付けて家を出た。  基本的に村瀬は自炊はしない。自分のために手間をかけてやろうという考えはないし、倒れない程度に腹を満たせればいいのだからコンビニでおにぎりでも買えばいいのだ。  身体にあまり良くないだろうとは思いつつ、忙しい毎日が余裕を与えてくれない。  仕事が始まれば何故か便利屋のごとく他部署からも業務を寄越され、自分の仕事がギリギリになるものだから多方から怒られる。そんなサンドバッグの村瀬を憐れむような目で見る者もいるが、巻き込まれたくはないようで手を差し伸べてくれるような同僚はいなかった。  前に村瀬に忠告してくれた同期が唯一かばってくれた人間だったかもしれない。消極的な村瀬はそんな同期にも連絡することなくなってしまったのだが。   「ああ、面倒くさい……」    そう、何もかもが面倒くさかった。  押し付けられる仕事をやんわりと断るのも、それで相手が不機嫌になるのも、ご機嫌を取るのも、仕事を受けたら受けたで何故自分の業務でないものをしなきゃいけないのかも、それに対してちゃんと反論できない自分にも……。  ストレスは貯まる一方なのに発散する場がない。そしてこの環境から抜け出そうとすることすら面倒くさいと思ってしまう末期の村瀬だ。    いつもなら23時近くになっても残業している村瀬は、周りに頭を下げながら、というかカバンを抱えて俯いて逃げるように20時前に退社した。  あの動物病院ならきっと遅くに連絡をいれても対応してくれるかもしれないが、いい先生だからこそ自分なんかが迷惑かけたくないと思ってしまうのはしょうがない。  いつもなら職場から電車に乗って最寄り駅に出ると、少し迂回してコンビニと公園に寄るところだが、動物病院に行くので全然違うルートで歩き出す。時間帯も早くて村瀬にとっては少しばかり新鮮な光景に映った。   「明るい……人も多い……数時間違うだけでこんな違うのか……」  
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