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湯川瑠維斗
「あの、本当にありがとう。湯川くんはわたしの命の恩人だよ?」
「そんなぁ、大袈裟だよ(笑)」
「だって、本当に私、あの時どうしていいか分からなくて。湯川くんが来てくれなかったら、わたし……わたし……」
「お節介かもって思ったけど、矢尾さんの助けになれてたなら良かったよ」
あの日、学校で帰り支度をしていた湯川瑠維斗の傍で、スマートフォンが注意を促していた。
「心拍数が上昇しています」
聞いたことのあるアラートから、それが矢尾和奏のスマートフォンからであることはすぐに判った。彼女のウェアラブル端末に内蔵されているヘルスケアアプリは、彼女のスマートフォンと連動しているのだ。
「矢尾さん、スマホ忘れていったのかな……」
湯川瑠維斗は、気にすることなく帰宅するつもりだった。しかし、注意が警告に変わって、彼は足を止めた。
「心拍数が異常です。すぐに安静な状態に落ち着いてください」
聞いたことのないアラートから、それが矢尾和奏に危険が迫っていることはすぐに察しがついた。彼女が危ないかもしれない。そう思った彼は、彼女のスマートフォンを手に取らずにはいられなかったのだ。
「心拍数が異常です。119番に通報しますか?」
とうやら通報システムがあるらしい。彼女自身が救助を呼べるなら大丈夫かもしれないと、彼は緊張の面持ちで通知を見守った。
「あれ? 止まっちゃった」
程なくして、スマートフォンからの警告は鳴き止んだ。しかし、湯川瑠維斗は益々不安に駆られた。なぜなら、スマートフォンの通知には、「通報がありました」ではなく、「通信が途絶えました」と表示されていたからだ。
彼女は危険な状態のまま、どこかで息絶えそうに助けを求めているかもしれない。心配に駆られた彼は、何とか彼女の居場所を突き止めようした。
「矢尾さん、ごめん!」
罪悪感を抱えながらも、彼女のスマートフォンのロックを解除し、連携しているウェアラブル端末の軌跡を確認。忘れ物を届ける役目も兼ねて、彼は救急隊員の如く現場に急行したのだった。
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