ビッグプロローグ 6

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 「…キャンペーンガールの護衛だと?…」  私は、言った…  私の細い目を、さらに、細めて、言った…  が、  葉問は、反応せんかった…  私が、睨んだのにも、反応せんかった…  だから、私は、葉問を睨むのを、止めた…  「…バカも休み休み言え…」  と、言って、止めた…  「…この私にキャンペーンガールの護衛など、できるわけがないだろ?…」  「…ですよね…」  葉問が、あっさりと言った…  「…目的はなんだ?…」  「…アムンゼン殿下です…」  「…なぜ、ここで、アムンゼンの名前が出る…」  「…殿下が、そのキャンペーンガールのファンなんです…」  「…あのアムンゼンが、か?…」  「…そうです…」  うーむ…  驚いた…  が、  考えてみれば、当たり前…  あのアムンゼンも、3歳の子供にしか、見えんが、ホントは、30歳…  30歳の大人だ…  だから、キャンペーンガールに憧れても、おかしくはない…  当たり前のことだからだ…  「…どんな女だ?…」  私が、聞くと、葉問が、スマホを取り出して、見せた…  そして、スマホの画面の中の水着の美女を見せた…  「…これが、リンです…」  「…そうか…」  呟きながら、私は、再び、私の細い目を、さらに、細めて、その写真を見た…  たしかに、いい女だった…  長身で、水着が似合う…  顔もいい…  いわゆる、目鼻立ちの整った正統派の美人顔…  たしかに、あのアムンゼンが、惚れるのは、わかる…  わかるのだ…  なにより、長身なのが、いい…  なぜなら、あのアムンゼンは、3歳のガキ並みのカラダしかない…  だから、長身の美女に憧れる…  なぜなら、自分にないものだからだ…  これは、アムンゼンに限らず、同じ…  背の低い男が、背の高い女に憧れる…  真逆に、背の高い男が、背の低い可愛い女に憧れる…  これもまた自分にないものだからだ…  だから、憧れる…  頭のいい男や女に、頭の悪い男や女が、憧れるのも、同じ構図だ…  つまりは、自分にないものに、憧れるというやつだ…  だから、憧れる…  そういうことだ…  が、  不思議だった…  なぜ、この葉問が、そんなことを、知っているのか?  不思議だった…  アムンゼンの存在は、極秘…  極秘=トップシークレットだ…  サウジアラビアのトップシークレットだ…  だから、アムンゼンが、どんな人間か、誰も、知らない…  当然、この葉問も知るはずがない…  いや、  この葉問も、また、アムンゼンとは、面識があるが、そこまで、知っているわけがない…  アムンゼンの趣味嗜好まで、知っているわけはない…  しかしながら、知っている…  と、すれば、どうだ?  どこかで、調べたか?  あるいは、誰かに、教えてもらったか?  私は、そう、思った…  私は、そう、睨んだ…  「…どうしました? …お姉さん? …そんな難しい顔をして?…」  「…オスマンか?…」  私は、言った…  いきなり、言った…  「…オスマンが、どうか、しましたか?…」  「…オスマンに教えて、もらったのか?…」  私が、言うと、  「…」  と、葉問が、黙った…  と、沈黙した…  「…図星だな…」  「…どうして、そう思うんです?…」  「…オマエとオスマンが、似ているからさ…」  「…ボクと、オスマンが、似ている?…」  「…そうさ…だから、仲がいい…違うか?…」  「…どうして、そう思うんですか? オスマンとは、以前、ボクは、殴り合っているんですよ…」  葉問が、言う…  私は、それを、聞いて、思い出した…  以前のことを、思い出した…  この葉問は、以前、オスマンと殴り合いのケンカをした…  原因は、アムンゼンだった…  以前も、言ったように、アムンゼンは、サウジアラビアの国王にならんとした…  実際には、国王には、なれないから、サウジアラビアの実権を握り、誰か、別の人間を国王にして、自分は、陰から、その人間を操ろうとした…  が、  その計画が、事前に漏れ、クーデターは、失敗…  日本に追放された…  そして、日本で、オスマンの面倒を見た…  オスマンは、この葉問と同じ、ヤンキー上がり…  だから、国王も手を焼いて、日本に追放した…  そして、アムンゼンに、オスマンの面倒を見ろと、命じた…  なにしろ、アムンゼンは、アラブの至宝と呼ばれるほどの、頭脳も持ち主…  頭脳が、ずば抜けている…  しかも、オスマンは、アムンゼンの甥…  面倒を見ろと、国王が、言うのは、ある意味、当然だった…  が、  それは、建前…  ホントは、オスマンは、アムンゼンの監視役だった…  日本に追放したアムンゼンが、再び、暴走しないか、身近で、アムンゼンを監視するために、オスマンを派遣した…  それが、真相だった…  そして、それに、気付いたアムンゼンが、オスマンを捕まえようとした…  そして、その捕まえようとした場所が、アムンゼンの通う、セレブの保育園だった…  まさか、セレブの子供たちが大勢通う保育園で、そんな大捕りものを、行うはずがない…  それが、一般人の考える発想だ…  しかしながら、アムンゼンは、その盲点を突いた…  だから、油断したオスマンが、パニックになり、こともあろうに、バニラの娘のマリアを人質にとって、セレブの子弟の通う保育園から、逃げ出そうとした…  ちょうど、その日は、セレブの子弟の通う保育園の文化祭だった…  だから、お忍びで、娘のマリアの姿を見ようとしたバニラが、オスマンの前に立ち塞がった…  お忍びというのは、バニラは、世界的に有名なモデル…  だから、世間では、子持ちであることは、隠している…  なにしろ、バニラは、まだ23歳…  3歳の娘が、いることが、バレれば、人気が、急落する可能性が、高いからだ…  だから、堂々と、娘のマリアの通う保育園に顔を出すことが、できない…  バレたら、困るからだ…  だから、お忍びで、やって来た…  その眼前で、自分の、娘が、オスマンに人質にされている光景を目の当たりにした…  バニラの怒りが、爆発した…  バニラは、元ヤン…  暴力には、滅法強い…  なにしろ、身長180㎝の大女だ…  だから、オスマンに立ち向かった…  が、  いかに、バニラが、元ヤンで、身長が、180㎝あろうとも、男女の違いがある…  最初は、オスマン相手に善戦したバニラだったが、やがて、倒された…  そして、バニラの代わりに、突然、現れたのが、この葉問だった…  オスマンは、バニラとの戦いで、体力を消耗したこともあり、この葉問に、屈した…  私は、今、それを、思い出した…  あれ以来、この葉問とあのオスマンが、会ったのを、見たことは、ない…  が、  当然、私の知らないところで、連絡をとっていても、おかしくはない…  そう、思ったのだ…  だから、オスマンから、聞いたのでは?  そう、考えたのだ…  すると、この葉問は、あっさりと、認めた…  「…ハイ…お姉さんの言う通りです…」  と、あっさり、認めた…  「…さすがですね…お姉さん…」  葉問が、私を褒めたが、私は、気に入らんかった…  なにか、ある…  まだ、なにか、ある…  これは、直観だった…  この矢田トモコの直観だった…  だから、  「…葉問…オマエ…まだ、なにか、隠しているな? …言ってみれば、いいさ…」  と、言った…  が、  葉問は、すぐには、答えんかった…  この矢田を弄ぶように、すぐには、答えんかった…  この矢田を、わざと、じらした…  だから、頭に来たが、私は、待った…  葉問の言葉を待った…  どうせ、遅かれ早かれ、葉問は、口にするに、決まっているからだ…  だから、待った…  待ち続けた…  すると、だ…  「…キャンペーンガールと言いましたが、実際は、違います…」  「…違う?…」  「…ハイ、違います…」  「…じゃ、なぜ、キャンペーンガールと言ったんだ?…」  「…似たようなものだからです…」  「…似たようなものだと?…」  「…ハイ…そうです…」  「…具体的には、なんだ?…」  「…チアガールです…」  「…チアガールだと?…」  「…リン…彼女は、台湾のプロ野球球団、三星のチアガールです…今、日本でも、日本ハムのチアガールが有名です…」  「…そうなのか? …知らんかったさ…」  私は、言った…  正直に、言った…  日本ハムは、知っている…  日本ハムというプロ野球の球団は、知っている…  が、  チアガールは、知らんかった…  知らんかったのだ…  「…で、それが、どうした? …私になんの関係がある…」  「…おおありです…」  「…おおありだと? どうしてだ?…」  「…今も言ったように、リンは、台湾のプロ野球球団、三星のチアガールです…ですが、その三星球団…身売りの話が出ているのです…」  「…なんだと?…身売りだと?…」  「…そうです…そして、その三星球団を、買うと言われているのが…」  「…まさか?…」  「…そのまさかです…」  葉問が、笑った…  不敵に笑った…  「…お義父さんか?…」  「…そうです…台北筆頭を率いる葉敬です…」  葉問が、断言した…                <続く>
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