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「ねえあなた、大丈夫?」
傍らに書物を積み重ね、パソコンでHPを検索。そして手書きでせわしなくメモを書きつける夫、進藤典史。妻のしのぶは眉を寄せ、その背にそう聞かずにはいられなかった。
「大丈夫じゃないから準備するんじゃないか」
「……ごもっとも」
一心不乱、一生懸命。そんな進藤をそれ以上鞭打てない。でも、しのぶには見えていた。……絶対失敗する。
「もしもし、真由ちゃん? うちの人に結婚式の挨拶を頼むなんて、ちょっと勇気ありすぎじゃない?」
電話した相手は、しのぶがまだ勤めていた頃の後輩である。が、真由は豪快にケラケラ笑い声を上げた。
「だって進藤係長は、誠君とあたしの共通の恩人ですもん。しのぶさんにも式に来てほしかったけど」
「高齢出産控え中なんで、ごめん。でもあの人、絶対挨拶に向かないって思うでしょ? 例のごとくしらけちゃうわよ……」
「あっはっは~!! ちっちゃいことは気にしない~!」
……そうだった。真由ってこういう子だった。そして相手の誠さんはおっとりしていて。しのぶは息をつきながら電話を切る。
進藤は二人が入社したての頃からの共通の上司なわけだから、まあ挨拶のご指名をいただくのは不思議じゃなくて。
「一生に一度の晴れの舞台だからな。いいスピーチをして盛り上げてやらなくちゃ」
進藤は張り切っている。が、気合を入れれば入れるほど場がしらける=「天使が通る」にちなんで、「典史=天使さん」と言われているくらいなのだ。
進藤の頭の上に暗雲が漂っているのを、しのぶはありありと見せつけられていた。
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