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じゃあ次の予備原稿。それがダメならその次の。
さあ来い、天使ども。自分、スピーチが下手くそだということにかけては、揺るぎない自信がある。まだまだあるぞ。第5、第6案――
汗て火照っていたはずなのに、全身冷え冷えとしてきた。顔に当たっていたのは最初はまだらな雨だったのに、大粒に変わり本降りになり、そして今や豪雨。風の音まで聞こえてきた……いや、あくまで個人的イメージだが。
「せっかくの式なのに、お天気残念だね」
「ねえ、やっぱ雨降って来ちゃって」
近くの席の女子が囁き合っていて……ん? 進藤の妄想じゃなく、本当に外は雨? 今朝早くに(式の開始7時間前に)マイカーで乗り付けたときには、ワイパーは要らなかったが。
そ、そうだ。予備の第10案に確か。
進藤、分厚いレポートのようなメモを、バッサバッサとめくり、息をつく。
「本日は、あいにくのお天気となりましたが、昔から日本には『雨降って地固まる』という格言がありまして――」
招待客一同は、無言、無表情のままだった。
いい話なのになぜ。
進藤、ついに激しい雷雨に見舞われる。
ムースで整えた髪が濡れねずみのごとく顔に張り付いて、一張羅の礼服がずぶ濡れで黒色濃く染まったところで(しつこいようですが、あくまで進藤の個人的感覚です)、新郎新婦が立ち上がった。
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