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ダメだ、失敗した。ごめん、悪い、申し訳ない。君らの門出をしっかり演出してあげたかったのに……。
進藤は、雪まで混じったブリザードに叩かれて樹氷になりかけていた。やはり自分にはこんな晴れやかな席での大役は無謀だったのだ。どんなに準備万端にしようとも。
が、真っ白なドレスが映える真由がにこやかに言った。
「雨といえば、進藤係長にこの歌を歌ってもらったことがあります」
真由はよく通る声でそう言うと、ゆったり歌い始めた。
おやまに あめが ふりました
あとから あとから ふってきて
ちょろちょろ おがわが できました
「僕もです」
続いて、新郎の誠が2番を歌う。
いたずら くまのこ かけてきて
そうっと のぞいて みてました
さかなが いるかと みてました
すると、式場の係員が、ボードを持って駆け出て来た。そこには「あめふりくまのこ」と題した歌の歌詞が記されている。
「えっ……」
ひるんだのは進藤だ。スピーチの中身については彼らに一言も伝えていない。しかも、「雨降って地固まる」は第10案だ。披露される確率は限りなく低――
「はい、皆さん3番からご一緒に!」
進藤が戸惑っているうちに、真由の音頭で客がみな立ち上がり、歌い出した。
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