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「そう。お式をぶち壊さずに済んだのね、よかった」
真由からの電話報告を受けたしのぶは、ホッと胸を撫で下ろした。
「さすがしのぶさん。鋭い読みでした」
「あら。梅雨の時期ならあの人が『雨降って地固まる』を持ち出すくらい、真由ちゃんだって予測できたでしょ」
だから会場に「あめふりくまのこ」の歌詞のボードを用意してもらったのだ。
「まったくもう。気合入れなきゃと思うと自分に自信がなくなって、他人の例文ばかり繋げるのよね、あの人」
「ねえ。ご自分の素の言葉がお客様に伝わって響くから営業成績が良いってのに」
真由はまた豪快にケラケラと笑った。
電話を切ると、しのぶは一つため息をついた。見れば、気力体力使い切ったのか、進藤は礼服も脱がずにソファでいびきをかいている。
しのぶは肩をすくめ、スマホの角っこでその頬をつついてみる。が、熟睡全く覚めやらず。
「人に言われたことに対する反応は素晴らしいのに、ゼロから何かを作り出すのが苦手なのよね」
そしてしのぶはクスッと思い出し笑い。
「プロポーズのときも山盛りレポート持ってたわよね。私が『何よ、どっかで聞いたことのある美辞麗句ばっかり!』って言ったら」
ゴゴゴッといびきは高鳴る。しのぶ、面白そうにその鼻をつまむ。
「そんなレポート放り出しちゃって。その後のあなたの一言。それで私は決めたんだって……何度言ったらわかるのよ……」
鼻を放すと、大いびき再続行。これ以上ない安心した顔で眠り続ける進藤に、しのぶはタオルケットをかけてやった。
(終)
【参考】
「あめふりくまのこ」
作詞:鶴見正夫
作曲:湯山 昭
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