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ケホ……コホッ……
軽く咳き込む仕草にそれとなく目を背ける。
「あんたさぁ、死ぬのが怖くないわけ? 明日までの命なのか明後日までの命なのかわかんないって、先生、そう言ってたんだ!」
言いたいことは真正面。
いい加減に届けよ、バカ。
「ふぅーん、知らねーなぁ。曖昧な予定に振り回されて何になるよ。それよりゲームしよ、ゲーム」
「はぁ?」
苦しくないわけがない。
今まで生きていられたのも奇跡。
そんな病状を平常に見せる彼は、15も年下のわたしをグイッと片手で抱き寄せて余裕顔だ。
だからわたしは……ずっと仏頂面で笑えない。
薫が「いいじゃん」て頭をわしゃわしゃしてくれる笑顔が作れない。
「どうせ俺が死んでも、俺の事を忘れることなんて出来ないだろう?」
「そうしたのは、あんたの所為だッ」
「違いねぇや。俺もそうだよ、お前を抱いた感触や熱や息遣い。その全てを、忘れたりなんかできやしない」
血色の悪く骨ばった掌を見つめて、その視線をわたしに移すと彼は悪戯に笑う。
「お前って仔猫みたいで可愛いな。世話してやっから、まぁ泣くな」て、親から虐待されて逃げてたわたしを助けてくれた時みたいに、笑う。
「ルール説明するぞ?」
……耳元で囁くのは狡い。
微かな振動がこそばゆくて肯定も否定もできなくなる。
「俺は近々、この空の“星”になる予定だ」
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