第一章 カレーのにおいに導かれ

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第一章 カレーのにおいに導かれ

「えっと。 では、解約したい、と」 お客に呼び出されて家に行けば最悪の要件で、心の中でため息をついた。 「ちょっと! 睨まないでもらえます!? こんな詐欺まがいの商品、勧めてきたオタクが悪いんでしょ! 警察呼びますよ!」 「……申し訳、ございません」 お客である年配の女性がヒステリックに声を上げ、口から出そうになったため息をどうにか飲み込んだ。 睨むなって別に俺は睨んでいない。 が、三白眼で生まれつき目つきが悪いせいで、よくそういう誤解を受けた。 しかも最近は疲労でクマが酷く、さらに人相を悪くしていた。 「この度は誠に、申し訳ございませんでした」 出ていく俺をお客は憎々しげに睨んでいた。 あの様子だと俺が出ていった途端、塩でも撒かれているかもしれない。 まだ開封すらされていない、回収した空気清浄機を抱えて近くの駐車場まで戻る。 積み込んだ車の中には今日のノルマである五台が鎮座していた。 「……減るどころか、増えたし」 口から乾いた笑いが落ちていく。 俺の勤める会社では空気清浄機のリースをやっていた。
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