第一章 カレーのにおいに導かれ

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不意に、なんでもないように店主が話しかけてくる。 「えっと……」 定時で帰れるのは会社の見栄と新入社員を得るための餌だ。 実際は扱っている商品はアレだし、ノルマは厳しく不達成ペナルティを給料から引かれる。 「その割にクマが酷いけど、寝ないでゲームでもしてるの?」 どう答えたらいいかわからなくて迷っていたら、かまわずにさらに店主は聞いていた。 内容は皮肉るようだが、その声はあきらかに俺を心配していた。 「……そう、ですね」 口先だけで肯定し、その場を誤魔化す。 それに実際、眠れずに朝までゲームをしているなんてザラだった。 「あれかな、ゲームに課金してごはん食べるお金もないとか」 「それは……」 皿を洗っていた手が止まる。 本当にそうなら馬鹿にされ笑われても仕方ない。 けれど実際は少ない給料からさらにペナルティを引かれ、ゲームに課金なんてできないほど生活はカツカツだった。 にゃん払いで未来の俺に前借りなんて言い訳してこの店に入ったが、引き落とし日に金が準備できているかも怪しい状況だ。
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