第一章 カレーのにおいに導かれ

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そんなものないし、辞められるのなら辞めたい。 しかし先述のような事情もあるし、それになにより。 「……金がないので辞めたら生きていけないです」 もともと薄給なうえにペナルティを引かれまくり、給料はほとんど残らない。 家賃や携帯の使用料等をどうにか払い、食事は極限まで切り詰めるような生活をしていた。 「失業保険が出るでしょ、失業保険が。 そのペナルティとやらも違法だから訴えりゃたぶん、戻ってくるよ」 自信満々に店主が頷くが、本当にそうなんだろうか。 「仮に訴えるにしても、弁護士とか雇う金はないです」 そんな金があればとうに仕事は辞めている。 ないからこそ辞められず、ずるずると勤め続けているのだ。 「僕がいい弁護士、紹介してあげるよ。 アイツは僕になにかと世話になってるから、ちーっと頼めばツケにしてくれるさ」 「は、はぁ……?」 豪快に笑いながら店主が背中をバシバシ叩いてくる。 見た目から推測される年の割に力が強くて、痛い。 「あとはそうあれ、次の仕事決まるまではここで皿洗いしてくれたら、ごはんは食べさせてあげる。 ほら、これでなんとかなるよね?」
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