62人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
これで決定だとばかりに店主が俺を見上げる。
その笑顔を見ていたら、それでなんとかなりそうだと思えるのはなんでだろう?
「……仕事、辞めたいです」
「うんうん。
辞めよう、辞めてしまおう」
促すように店主が頷く。
「仕事、辞めたいです……!」
けれど俺には彼がここまで気遣ってくれてなお、あの上司に辞めたいと言える勇気がなかった。
言えばきっと、怒鳴られる。
今度こそ、殴られるかもしれない。
想像するだけで怖くて怖くて堪らなかった。
「気持ちが決まったなら善は急げだね。
ちょっと待ってて」
店主は携帯を取りだし、どこかへ電話をかけ始めた。
そのあいだにあと少しになっている洗い物を終わらせてしまう。
俺が洗い物を済ませ、渡されたタオルで手を拭いていたら、もう閉店しているはずなのにドアベルがからんと音を立てた。
「もうかずさん、なにも説明せずに『すぐに来い』ってだけ言って切るの、やめてもらえない?」
飛び込んできたのは眼鏡をかけた、スーツ姿で小柄な男性だった。
最初のコメントを投稿しよう!