第一章 カレーのにおいに導かれ

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「うるさいなー。 残り物でなにか食べさせてあげようと思ったけど、やめようかなー」 「えっ、和紀(かずのり)様! 後生ですからなにか食べさせて!」 縋りついて男が店主を拝み、まるでなにかのコントでも見ているようだ。 すぐに店主がキッチンに立ち、料理を始める。 俺はカウンターの中から追い出され、促されて男と並んで席に座った。 「そのお兄さんが会社を辞めたいそうなんだ。 ただ、そこがどーも、ブラックな企業みたいなんだ」 「あー、りょうかいでーす」 軽い調子で言い、男は俺のほうを向いた。 「僕は弁護士をしている、町谷(まちや)といいます」 「あ、……ども」 差し出された名刺を慌てて受け取る。 いわれて見れば、襟に弁護士を示すバッジがついていた。 けれど、童顔で俺より年下に見える彼が、弁護士だなんていわれてもいまいちピンとこない。 「だいたいの事情は察しました。 仕事はもう、明日から行かないでいいです」 「え……」 なにを言っているのかわからず、男――町谷さんの顔を凝視していた。
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