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「うるさいなー。
残り物でなにか食べさせてあげようと思ったけど、やめようかなー」
「えっ、和紀様!
後生ですからなにか食べさせて!」
縋りついて男が店主を拝み、まるでなにかのコントでも見ているようだ。
すぐに店主がキッチンに立ち、料理を始める。
俺はカウンターの中から追い出され、促されて男と並んで席に座った。
「そのお兄さんが会社を辞めたいそうなんだ。
ただ、そこがどーも、ブラックな企業みたいなんだ」
「あー、りょうかいでーす」
軽い調子で言い、男は俺のほうを向いた。
「僕は弁護士をしている、町谷といいます」
「あ、……ども」
差し出された名刺を慌てて受け取る。
いわれて見れば、襟に弁護士を示すバッジがついていた。
けれど、童顔で俺より年下に見える彼が、弁護士だなんていわれてもいまいちピンとこない。
「だいたいの事情は察しました。
仕事はもう、明日から行かないでいいです」
「え……」
なにを言っているのかわからず、男――町谷さんの顔を凝視していた。
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