第一章 カレーのにおいに導かれ

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たった今、知り合ったばかりの俺にここまでする義理はない。 店主も、町谷さんもだ。 「袖振りあうもなんとかっていうし。 気にしなくていいよ」 「そうですよ」 うんうんと店主も町谷さんも頷いている。 「それに彼には手付け料で、こうやってごはん食べさせてあげるし」 店主が町谷さんの目の前に置いたのは、ハンバーグにナポリタン、エビフライがご飯とともにワンプレートにのった、大人のお子様ランチというべきものだった。 さらに山盛りのポテトサラダまで添えられている。 「もう、こんなの食べさせてくれたら頑張っちゃうよー」 ほくほく顔で町谷さんがスプーンを取る。 本当にいい人たちで、胸がじーんと熱くなった。 「俺のためにありがとうございます」 精一杯の気持ちで頭を下げる。 俺にはそれしか、できなかった。 「いいって。 きっとこれも、なにかの縁だしね」 器用に店主が、片目をつぶってみせる。 それは酷く不器用で、つい笑っていた。
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