第一章 カレーのにおいに導かれ

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空間除菌100%を謳っているがその実、空気がなんとなく綺麗になる程度の性能しかない。 そんなものをどうお客に勧めていいかわからない俺の営業成績は地を這っていた。 「……いっそこのまま、海にでも突っ込むか」 冗談めかして言い、ドアを閉めて車を出す。 契約が取れないうえに遅くなると怒鳴られる。 うちの会社はブラック企業のくせに残業厳禁で、そういうところでホワイト企業面をしていた。 「一台も契約が取れないどころか解約までされて、よく戻ってこれたな!」 報告を聞き、胸ぐらを掴まれないのが不思議な勢いで上司が怒鳴る。 「……申し訳、ありません」 頭を下げ、小さくなった。 戻れば地獄、戻らなくても地獄。 なら、どうすればいい? 「そんな辛気くせぇ顔してるから、一台も契約が取れねぇんだ! 損害分、お前の給料から引いとくからな!」 「……申し訳、ありません」 心を殺し、ただ頭を下げ続けた。 そうしないと耐えられない。 「伊藤(いとう)、また課長に怒鳴られたのかよ」
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