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第二章 昔飼っていた犬
あれから俺は無事に仕事を辞め、大橋さんの店――あの喫茶店で、就職活動の傍ら皿洗いをしている。
「またダメだったです……」
力なく、カウンターテーブルに突っ伏す。
いくつかエントリーしたところから返事が来たが、すべてお祈りメール。
面接にすらこぎ着けられない。
「まあ、これでも食べて元気出して」
大橋さんが俺の前に置いたのは今日のランチメニューである、生姜焼き定食だった。
においを嗅いだ途端、お腹が情けなくぐーっと鳴る。
「いただきます」
もそりと身体を起こし、ありがたく手をあわせる。
ここで食事をするようになって、俺の顔色は飛躍的にマシになった。
早く次の仕事を決めなければという焦りはあるが以前ほどストレスはない。
おかげでよく食べ、よく眠り、このまま一生、居座るんじゃないかと思われていたクマも、かなり薄くなった。
「うまいです」
生姜の香りが食欲をそそる。
甘辛いタレはただ砂糖甘いわけではなく、奥行きを感じさせた。
それが薄切りタマネギとともに中厚の豚ロースに絡んでいるとなれば、最高と言わざるをえない。
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