第二章 昔飼っていた犬

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お客もほとんど捌けたので暇になり、大橋さんは自分で淹れたコーヒーを傾けながら新聞を読んでいる。 「うっ。 ……そ、それは、困ります」 いや、正直にいえば困らない。 町谷さんのおかげで失業保険は最短で支給されたし、さらにペナルティだなんだと給料から引かれまくっていた金も、全部ではないが返ってきた。 今は会社に勤めていたときよりも裕福なくらいだ。 とはいえ、就職が決まるまでは無駄遣いなどできないが。 とにかく、金については困らないが、こんな美味しいメシが食べられなくなるのは非常に困る。 「そーでしょー、そーでしょー」 頷きながら大橋さんはカップを口に運んだが、その真意はわからない。 だいたい、俺にタダでメシを食わせてなんの得が……あるか。 無言で、泡だらけの自分の手もとを見つめる。 毎回、皿洗いだけでかなりの時間がかかっていた。 「でもマジで、食洗機は直したほうがいいですよ。 俺もいつまで、こうやって皿洗いに来られるかわからないですし」 すぐにでも就職など決められると若干、強がってみせる。 「そーだねー、気が向いたら修理するよ」
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