第二章 昔飼っていた犬

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「まあ、そこが陽一くんのいいところだけど。 これからはその人が本当に困ってるのか、自分じゃなきゃダメなのか、よく考えて引き受けるようにしようよ」 じっとレンズ越しに大橋さんが俺を見つめる。 その目は俺を心底心配してくれていた。 俺に仕事を頼んできていた上司や同僚は、困っているわけではなく自分が楽したいだけだっていうのは薄々わかっていた。 なのにいつも迷惑をかけているからと引き受けていた俺は、よくなかったといまさらながら気づいた。 俺がそういう人間だったから彼らにとって都合がよく、辞めさせてもらえない要因のひとつになっていたのも。 「これからはもう少し、考えるようにします」 「うん」 俺の答えを聞き、満足げに大橋さんが頷く。 もしかしたら再就職が決まらないのも、これが原因かもしれない。 「でも、やっぱり昼、手伝いますよ。 確実に大橋さん、困ってるじゃないですか」 「うっ」 図星なので彼が声を詰まらせる。 けれどすぐに気を取り直して口を開いた。 「まー、どうにかやっていけてるし、心配しなくていいよ。 それで今までやってきたしね。 陽一くんが皿洗いしてくれるだけで、凄く助かってるし」
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