第二章 昔飼っていた犬

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大橋さんの口もとに苦笑いが浮かぶ。 「それに店、自転車操業だからアルバイト雇うほど余裕ないからね。 ひとりでどうにかするよ」 これでこの話は終わりだとばかりに彼がにっこりと笑う。 確かにモーニングやランチのセットは赤字ギリギリだし、そんなに余裕がないのは推測できる。 けれど、忙しいのに人を雇わないのはそれだけではない気がした。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」 コーヒーが俺の目の前に置かれ、ふくよかな香りが鼻腔をくすぐる。 それを胸いっぱい吸い込んだ。 この店は料理も最高だが、コーヒーも最高なのだ。 ここのコーヒーに慣れたら、チェーンのコーヒーショップのコーヒーなんて飲めなくなるんじゃないかと思う。 ……まあ、最近は金がないから行っていないが。 でもこのあいだ、ひさしぶりにコンビニでカウンターコーヒーを買ったら、飲めなかった。 それくらい、違うのだ。 「よかったらこれもどうぞ」 さらに、新しい皿が置かれる。 その上には黒い物体がのっていた。 「新作ケーキなんだ。 感想を聞かせてくれると嬉しい」
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