第二章 昔飼っていた犬

8/19

62人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
僅かに頬を赤らめ、恥ずかしそうに大橋さんがぽりぽりと人差し指の先で頬を掻く。 その姿を見て俺のほうが恥ずかしくなってきた。 この人はもうすぐ還暦だなんて思えないほど、ときどきこういう可愛い姿を見せてくるから困る。 「いただきます」 とりあえずひとくち、ケーキを食べる。 タダのチョコレートケーキかと思ったら、中になにか入っていた。 少し酸味のあるこれは林檎か? それがいいアクセントになっていて、美味しい。 「美味しいですね! 特に、林檎が入ってるのがいいです!」 「よかったー」 そんなに自信がなかったのか、ほっと大橋さんは胸を撫で下ろしている。 「林檎をたくさんもらっちゃってさ」 彼がちらりと視線を向けた厨房の隅には、林檎が入っているであろう、大きな箱が置かれていた。 「アップルパイやタルトタタンじゃ芸がないだろ? だからこういうのはどうかなって作ってみたんだけど、よかったみたいだね」 うん、うん、と勢いよく頷いた。 チョコレートと林檎がよくマッチしていて、さらにコーヒーにあう。 この組み合わせは正解だ。 「じゃあ、明日から出そーっと」
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加