第二章 昔飼っていた犬

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こんなに来て迷惑じゃないかと思うが、皿を洗ってくれるのは助かると大橋さんは笑っている。 相変わらず、食洗機は修理される気配がない。 「……明日、面接なんですよ」 もう定番となりつつある憂鬱なため息をつき、カウンターに突っ伏す。 「なんでやっと面接までこぎ着けたのに、そんなに憂鬱そうなの?」 大橋さんは怪訝そうだが、それはそうだろう。 普通だったら喜んでいてもいいところだ。 「だって……怖いんですよ」 また、俺の口からため息が落ちていく。 前の会社の上司や同僚から受けたパワハラのせいか、スーツ姿の人間が苦手になっていた。 特に上司と同じ年くらいの、中年サラリーマンが店にいるときなど、無駄に動悸がするくらいだ。 そんな状態なのでオンラインとはいえ、まともに面接ができるのか不安だった。 「こればっかりは僕にはどうにもしてあげられないからねぇ」 申し訳なさそうに言い、大橋さんが皿を置く。 今日のランチはエビクリームコロッケだ。 「いや、大橋さんは全然悪くないんで! 心配させてすみません!」 これは俺の問題で彼はまったく悪くない。
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