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「まあさ、それは冗談だけど」
笑いすぎて出た涙を、彼は眼鏡を浮かせて指先で拭った。
「でもなんか、この子をこのまま帰しちゃいけないな、って思った」
あの日の俺を見ているのか、彼の目が僅かに細くなる。
大橋さんがあのとき声をかけてくれなければ、きっと俺は今こうやってメシを食っていないだろう。
「ありがとうございます。
ほんとに感謝しています」
会社を辞めさせてくれ、こうやって今は食わせてくれている。
感謝してもしきれない。
「よしてよ、そんな」
照れくさそうに彼が笑う。
「それにさ、昔飼ってた犬を思い出したんだよね」
「犬……ですか」
なんか悪い予感がするのはなんでだろう?
「そう。
保護犬だったんだけどさ、最初に面会に行ったときは初めて会った陽一くんみたいな顔をしてたよ。
それを思い出した」
「そう、なんですね」
「うん。
でもその犬、警戒心が解けてからはほんと、よく懐いてね」
なぜか大橋さんが、俺の顔を見て笑う。
「陽一くんもそうなればいいなと思ってたんだけど。
最近ますます、キング……あ、昔飼ってた犬だけど、キングに似てきたよ」
「はぁ……」
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