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「いらっしゃい」
俺を目に留め、眼鏡の向こうでにっこりと大橋さんの目尻が下がり、くしゃっと年相応の皺が寄る。
それに心が、ほっこりとした。
「今日は遅いから、もう来ないのかと思ったよ」
「あー……」
うだうだと悩んでいるあいだに時間が経ち、気づいたらいつも家を出る時間を過ぎていた。
おかげでお客はもう、ほとんど残っていない。
「……ちょっと」
なんとなく、先方からかなりいい返事をもらえたのを誤魔化した。
報告したらきっと、喜んでくれるのに。
「今日もランチでいい?」
「はい、お願いします」
もう俺の定位置になっているカウンターの席に座り、大橋さんが料理をするのを眺める。
半分以上白髪の髪は柔らかそうだ。
べっ甲調の、ボストン眼鏡の奥に見える下がった目もとは優しそうだけれど、厳しさも秘めているのは知っている。
「ん?
どうかしたのかい?」
俺の視線に気づいたのか、レンズの向こうで目尻が下がった。
「あ、いえ。
なんでもない、です」
慌てて笑って取り繕う。
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