第三章 パートナー

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「いらっしゃい」 俺を目に留め、眼鏡の向こうでにっこりと大橋さんの目尻が下がり、くしゃっと年相応の皺が寄る。 それに心が、ほっこりとした。 「今日は遅いから、もう来ないのかと思ったよ」 「あー……」 うだうだと悩んでいるあいだに時間が経ち、気づいたらいつも家を出る時間を過ぎていた。 おかげでお客はもう、ほとんど残っていない。 「……ちょっと」 なんとなく、先方からかなりいい返事をもらえたのを誤魔化した。 報告したらきっと、喜んでくれるのに。 「今日もランチでいい?」 「はい、お願いします」 もう俺の定位置になっているカウンターの席に座り、大橋さんが料理をするのを眺める。 半分以上白髪の髪は柔らかそうだ。 べっ甲調の、ボストン眼鏡の奥に見える下がった目もとは優しそうだけれど、厳しさも秘めているのは知っている。 「ん? どうかしたのかい?」 俺の視線に気づいたのか、レンズの向こうで目尻が下がった。 「あ、いえ。 なんでもない、です」 慌てて笑って取り繕う。
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