第三章 パートナー

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「就職諦めてバイトでもいいかな、って。 ほら、コンビニとか飲食店のバイトなら、いつも募集してますし。 それなら時間の融通も利きますから、ここで皿……」 そこまで言って言葉が途切れる。 大橋さんが今までにない厳しい顔で俺を見ていた。 「それは逃げてるだけだよ」 彼の言葉がずしんと俺の腹に落ちてくる。 「就職活動が上手くいかないから、楽なほうに逃げようとしているだけだ」 違うと言いたいけれど、声が喉で引っかかって上手く出てこない。 「若いから今はいいかもしれない。 でも、年を取ったら? 最近は働き方もいろいろだし、こういう考え方が古いのはわかってるよ。 けどね、僕は陽一くんに後悔しない選択をしてほしい」 大橋さんはどこまでも真剣で、それだけ俺を思ってくれているのはわかった。 それに、彼が言うのはもっともだ。 会社員に比べ、バイトは保証が薄い。 退職金はないし、年を取ったら大変だろう。 ――しかし。 「俺、は」 別に就職したくないわけではない。 ただ、大橋さんとのこの時間をずっと続けていたいだけだ。 この時間を失うのなら、職になど就かなくていい。
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