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肉屋でコロッケすら買えないのに、食事などできようはずがない。
なのに足は貼り付けられたかのようにそこから一歩も動かない。
「……きっとにゃん払い、使えるよな?」
そうやって近い未来の自分に前借りするのは嫌だが、そうでもしなければ家に帰り着けそうにない。
そーっとドアを押すと、からんと古風なドアベルの音がした。
ここに越してきて一年が過ぎようとしていたが、店に入るのはこれが初めてだ。
「いらっしゃい」
カウンターの中にいた店主が、にこやかに挨拶をしてくれる。
ワイシャツに蝶ネクタイ、黒エプロンはいかにも喫茶店の主っぽい。
白髪交じりの長めの髪にべっ甲調の眼鏡をかける彼は、柔和な印象を与え、なんとなくほっとした。
「ひとり?
カウンター、どうぞ」
彼が視線で指したカウンターの席に腰を下ろす。
よく磨き込まれたカウンターは、艶やかな飴色をしていた。
「メニューどうぞ」
「……ありがとう、ございます」
ぼそりと呟き、目をあわせないように受け取る。
手作り感満載のメニューを捲ってカレーの金額を確認した。
「うっ」
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