最終章 定食、皿洗い、ときにキス

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俺もフォークやナイフ、グラスなど必要なものを運んだ。 「今日はお祝いだし、これも」 さらに赤ワインのボトルをテーブルの上に大橋さんが置く。 「いいんですか」 「いいの、いいの」 笑いながら彼が椅子に座り、ささやかな祝宴と慰労会が始まった。 「陽一くん、就職おめでとう」 「ありがとうございます。 大橋さんも五年間、お疲れ様でした」 互いに注いだワインで、まずは乾杯。 「でもよかったね、いいところに就職決まって」 「大橋さんのおかげです」 あの日、彼が声をかけてくれなかったら、俺は今こうして酒なんか飲んでいなかったかもしれない。 それにその後もなにかと気にかけてくれ、おかげで就活も頑張れた。 もう、彼には感謝してもしきれない。 「僕はなにもしてないよ。 陽一くんが頑張ったからだよ」 目尻が下がり、眼鏡の影にくしゃっと笑い皺がのぞく。 俺の大好きな笑顔。 でも、もうこれが見納めだ。 ワインを飲みながらちまちまと料理を摘まむ。 「これからどうするんですか」 老後生活に入るにはまだ早い。
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