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もし、どこかで新しい店を開くのなら、そこに通ってもいい。
「そうだな……。
とりあえず、田舎に帰ってしばらくはのんびりするかな。
昭雅が死んでからはこの店続けるのでいっぱいいっぱいだったし」
懐かしむように大橋さんは、店内を見渡した。
ここは亡きパートナーとの思い出が詰まった店だ。
本当にやめてしまって、後悔はないんだろうか。
「本当にこの店、手放していいんですか。
大事な人の夢だった店なんでしょう?
彼だってきっと、大橋さんに長くこの店を続けてほしいと思っていますよ」
こんなの、詭弁だってわかっていた。
彼の感情につけ込み、俺がこの店を続けてほしいだけだ。
「そうだね」
その言葉を聞き、期待で顔が上がる。
「でも、だからここにいるのがつらいんだ」
淋しそうに彼が微笑み、なにも言えなくなって俯いた。
もういない人の気配を感じながら過ごし続けるのは、俺なんか想像できないくらい苦しいのかもしれない。
幸いなのか、まだ大事な人を亡くしたことのない俺にはわからないが。
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