最終章 定食、皿洗い、ときにキス

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そのあともワインのグラスを傾けながら、ここがなくなって町谷さんは食事をどうするんだろうとかどうでもいい話をする。 「店の片付けはどうするんですか? このままじゃダメですよね?」 ここは自宅兼店で二階が自宅になっているらしいが、田舎に帰るとか言っていたし引き払うのだろう。 「んー、業者にでも頼もうかと思ってるよ。 ほら、なんでも屋さんいるし」 「ああ」 すぐに誰かわかり、頷く。 ここで皿洗いを始めて知ったが、商店街の雑用事を引き受けている、なんでも屋がいるのだ。 どうしても手が足りないときなど、手伝ってもらっていたらしい。 「どうせ全部処分するし、欲しいものがあったら持っていっていいよ」 「ほんとですか?」 立ち上がり、店の中を物色する。 が、すぐに戻ってきてまた椅子に座った。 「俺は大橋さんが欲しいです」 「……は?」 口に運びかけたグラスを止め、彼は目を大きく見開いて俺をまじまじと見た。 「冗談ですよ」 熱い顔を誤魔化すように、フォークに刺した肉に乱雑に噛みつく。
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