最終章 定食、皿洗い、ときにキス

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あんな思いは二度としたくないから、大事なものを作りたくない。 その気持ちは痛いほどわかった。 微妙な空気がふたりのあいだを支配する。 今日は楽しく飲んで、楽しく別れるはずだったのだ。 なのに、なんでこんなことになっているのだろう。 って、俺が酔った勢いで変なことを言い出したのが悪い。 「その」 「ちょっとふたりとも飲み過ぎちゃったね」 笑って大橋さんが立ち上がる。 その笑顔は無理をしていた。 「酔い醒ましにアイスでも食べる? そうだ、まだお腹入るなら、余ってるフルーツとか全部のせちゃおうか。 捨てるのももったいないし」 「プリン、プリンはまだありますか!」 カウンター内へと向かう彼を、俺も追いかける。 「残ってた気がするよ」 「じゃあ、自分で盛ってもいいですか。 一度、やってみたかったんですよね」 「もちろんだとも」 ふたりで並んでわいわいとデザートを作る。 少しわざとらしい気もするが、最後はこれくらい楽しいほうがいい。 それから俺は新しい会社で忙しく働いている。
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