第一章 カレーのにおいに導かれ

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しかし店主拘りらしく、それには千四百円の値がついている。 未来の自分に前借りは決めたが、それでも千円超えは避けたい。 泣く泣く、一番安いナポリタンに決める。 「……注文、いいですか」 「ちょっと待ってねー」 軽い調子で言い、店主が手にしたのはカレーの皿だった。 本当に美味しそうなそれは、俺の目の前を通り過ぎ奥の席にいた客の前に置かれる。 「おまちどお」 「きたきた。 やっぱりここに来たら、カレーを食べないとね」 ほくほく顔で年配の男がスプーンを握り、大口を開けてカレーを食べる。 それを見て喉がごくりと音を立てた。 「おまたせ。 えっと、注文だっけ」 「ああ、はい」 店主が俺の前に立ち、曖昧に笑ってまたメニューに視線を落とす。 千円超えは痛い。 痛い、が。 「……ビーフカレー、お願いします」 メニューを閉じ、店主へと差し出す。 「ビーフカレー、ね。 ちょっと待ってねー」 受け取った店主は用意を始めた。 ……やってしまった。
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