最終章 定食、皿洗い、ときにキス

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残業はあるが常識的な無理のない範囲だし、怒鳴る上司もいない。 メンテナンス技術を覚えるのに多少の苦労はしたが、のびのびとやっていた。 「今日はコンビニ寄って帰るか」 バスを降り、帰り道にあるコンビニへ寄る。 通勤手段が電車からバスに変わったのもあるが、あの店の前は通らないようにしていた。 行かなければ俺の思い出の中でずっと、大橋さんはあの店にいてくれる。 そんな、女々しい理由だ。 その日は仕事の都合で、電車で帰ってきた。 帰り道、さしかかった商店街では相変わらず、空腹には堪える暴力的なにおいが襲ってくる。 まず、入り口はたい焼き屋。 美味しそうな甘い匂いがしているが、今はがっつりいきたいから、気分じゃない。 次のたこ焼きからは魅力的なソースの香りが漂ってきたが、安易に小腹は満たしたくないんだよなー。 今度は肉屋から揚げ物のにおいが誘ってきたが、だから小腹じゃないんだって。 甘いものは別にいいやとケーキ屋の前を通り過ぎ、こってり系が食いたいとうどん屋もスルーする。 そして出口からは……。 「え?」
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