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あの日と同じ、カレーの香りが漂ってきて足が止まっていた。
そんなはずはない、だって店は閉めたはずなのだ。
けれど看板には電気がついていて、中からは人の気配がする。
少し迷ったあと、おそるおそるドアを押した。
鍵はかかっていなく、からんとドアベルの音がする。
のぞいた店内ではカウンターの中に、大橋さんが立っていた。
「いらっしゃい」
目のあった彼が照れくさそうに笑う。
俺は夢でも見ているんだろうか。
「そんなところに突っ立ってないで、入ってきたら?」
「えっ、あっ、……そうっすね」
自分がぼーっと立っていたのに気づき、慌てて店の中に入る。
空いている椅子に鞄を置き、俺の定位置だったカウンター席に座った。
「店、閉めたんじゃなかったんですか」
「あー、うん。
閉めたよ、一週間」
「一週間!?」
ははっと自嘲した彼に思わずツッコんでいた。
「え、じゃああれはなんだったんですか」
店を閉めて田舎に帰ると言っていた。
どんなに説得しても聞いてくれなかったし、それだけ決心は固いのだと思っていたのだ。
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