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大橋さんは完全に吹っ切れた顔をしていた。
もしかして昭雅さんが亡くなってから止まっていた時が、ようやく動き出したんだろうか。
「こんなふうに思えたのは陽一くんのおかげだよ。
本当にありがとう」
真摯に彼が頭を下げる。
「えっ、俺はなにもしてないですよ!
ただ、感情的になって、大橋さんのことなんか考えないで自分の気持ちをぶつけて」
あの日の自分を思い出すと、恥ずかしすぎて死にたくなる。
「まあ確かに、あの日の陽一くんは口が過ぎていたけど」
「勘弁してください……」
彼が悪戯っぽく笑い、とうとう俺はカウンターテーブルに額を打ちつけていた。
「ごちそうさまでした」
カレーを食べ終わり、席を立つ。
「時間あるなら皿洗いしてくれない?
タダにするし」
言われてカウンターの中をのぞき込むとシンクには皿が山積みになっていた。
「いいですよ」
ジャケットを脱いで置き、ワイシャツの袖を捲る。
カウンターの中に入ったら、いつもの定位置に俺の使っていたエプロンが掛けてあった。
まるで、待っていたかのように。
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