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前も可愛かったけれど、自分に素直になったとかいう大橋さんはさらに可愛いんだけれど?
「僕さー、犬を拾ってもすぐに里親に出そうと思ってたから、情けをかけないつもりだったんだけど。
でも、いつの間にか情が湧いていたみたいだ」
「はぁ……?」
〝犬〟とはきっと、俺のことだろう。
「大事なものを失うのが怖いから作りたくないのに、できちゃったら仕方ないよね?」
大事なものとは、俺か?
信じられなくて手を止め、彼を見下ろす。
「だからさ」
大橋さんの手が伸び、俺のネクタイを掴む。
引っ張られて必然、そちらへと頭が下がる。
その瞬間。
――彼の唇が、俺の唇に重なった。
「責任取って暇なときだけでいいから、皿洗いに来てよね」
目のあった彼が、眼鏡の向こうで目尻を下げ、にっこりと笑う。
それを見て俺は、その場に座り込んでいた。
【終】
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