side ②

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この頃の三好はどこかおかしい。 日中も虚ろな顔をしていて、いつもの優等生スマイルもできていなかった。顔も少しやつれたように見える。俺は三好と久々に大学に来ていた。お世話になった先生に挨拶して回る。あと、大学(ここ)に来るのは卒業式の日くらいだろう。太陽が夕刻を告げる。この時間帯になれば、三好はいつも悪魔の(うち)に帰る。けれどその日、三好は一向に帰路につこうとしなかった。 「ユウくんとなんかあったん?」 思い切って三好に聞いてみる。こいつの感情を揺さぶれる人間など1人しかいない。三好は伏し目がちに顔を曇らせたかと思うと、次には哀しい顔で「今日は、お前の家に泊めてくれ」と言った。三好は、その日の気分で俺の部屋をホテル代わりにすることが度々あった。けれど、いつもは許可を取らない三好が今日は俺に縋るように話すのが妙だった。三好は相当参ってるようだ。 家につくと、冬の寒さを閉じ込めた部屋が待っていた。三好はいつものように、低いベッドの方へ向かっていく。「もうそんな気分になったん?」俺は相変わらず今日も、三好がユウにぶつけたかったはずの欲望を身体に刻まれるのだと思った。ベッドに腰掛ける三好の膝の上に跨り、彼のジャケットをするりと脱がす。今度は俺が肌を晒そうとシャツのボタンに手をかけた。そんな時、彼の腹からぐうぅっと音が鳴った。まさかの出来事で俺は一瞬戸惑ってしまう。 「もしかして、ミヨシ、ご飯食べてへんの?」 三好は小さく頷いた。何も口にできないほど三好は憔悴しきっていたらしい。 「オレん家、なんもないんやけど。あるとしても、カップラーメンくらいしか、ミヨシはこんなん食わんよなあ」 「出してくれ」 三好はそう言ったけど、たぶん口には合わんやろな、と思った。俺がお湯を注いだカップラーメンを出してやると、三好はすぐに口に運んで、「硬っ...」と呟いた。「ふっ、はは。ハハハハっ」俺は堪えきれず笑ってしまった。 「ミヨシ、カップラーメンは3分待たなあかんよ?」 「あのミヨシくんがそんなことも知らんなんてみんな大笑いするやろうな」なんて三好をからかう。三好は恥ずかしそうに、「初めて食べたんだ」と言った。三好とラーメン。不相応すぎて面白い。俺は異様な光景に笑いが止まらなかった。 三好は笑いすぎて涙を流す俺を見て、「お前はそんなふうに笑うんだな」と言い、見たことない顔でふわりと笑った。三好と出会ってもうすぐ4年、初めて三好が俺を見てくれた気がした。三好はラーメンを半分残した。やっぱり口に合わなかったんだろうけど、それでも俺は三好が半分も食べたことがなぜか嬉しかった。 「遊が家から出てく」 三好はその理由までは語らなかったが、ユウとの別れを俺に教えた。ついにこの時が来たと思った。ユウがいないと生きていけないとまで言っていた三好の傍から悪魔は離れる。三好にとっては絶望だろう。でも、三好の絶望は俺の希望だった。堕ちてこい。俺のとこにはやく。そんな、貪欲な感情を隠し、俺は小さく鼻をすする三好の肩を抱いてやった。 その日、俺ははじめて三好とセックスをしない夜を過ごした。俺は三好から欲情以外のなにかを貰えるのだろうか。求めてもいいんだろうか。狭いベッドで三好の背中に触れる。トクトク脈打つ三好の心臓。三好、俺そろそろダメかも。三好の心が欲しい。三好にも俺の心を貰って欲しい。そんな純粋な感情がまだ自分に残っていたなんて、時分でも驚いた。
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