side ⑫

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和也からの手紙を受け取って、俺はすぐに和也の家を訪ねた。 マンションに入るためのパスワードも、作ってもらった合鍵ももう使えなくなっていて、いくらエントランスで和也を待ち続けても、彼はここに帰っては来なかった。電話も繋がらない。和也の居場所はわからない。 わからない。どうしてこうなってしまったのか。和也はたしかに俺を愛してくれていたはずなのに。どうして俺を手放したの? ずっと和也と対等になりたかった。 俺は何も持ってない、何も出来ない。空っぽだった。少しでも和也の隣に立って、恥ずかしくない人間になりたかった。だから、和也の元を離れてでも、俺は【一色 遊(いっしき ゆう)】として、俺がちゃんと俺として和也の隣にいたかった。 なのに、和也がいなくなったらこうも簡単に崩れていく。やっぱり俺は初めから空っぽのままだった。和也の優しさで埋められていただけ。 和也がいなくなるのは、俺がいなくなるのと同意義なんだ。もう和也の優しさを恵んでは貰えない。俺は残された和也の優しさに縋ることしか許されないのかな..... 行く宛がない。帰る場所がない。ずっと和也の(そば)が俺の居場所だと思ってた。でも、和也の帰る場所は俺のところではなかった。久々に感情が胸に流れ込んで来る。悲しい。苦しい。寂しい。寂しい、寂しいよ。春の訪れは嘘だった。外は暗く寒い。涙が肌を滑っていく。街ゆく人は俺なんかに見向きもしない。俺は、今度こそ本当に世界でひとりぼっちになってしまったらしい。 俺は明け方になるまで空を眺めていた。何時間ここに座っていたかわからない。次第に空をみるのも苦しくなって、俺はその場にしゃがみこんだ。動く気力も残ってない、そんな俺に影が落ちる。 「久しぶりやね」 顔をあげると、そこには見覚えのある男が立っていた。 「二見......亜蓮......」 彼は長く伸びた髪をかき揚げ、息を吐くと俺に手を伸ばした。 「ユウくん、行くとこないん? ボクん家くる?」 この男のことは好きではなかった。でも、二見は和也の友達だったはず。もしかしたら、和也の居場所を知っているかもしれない。俺は、二見が差し出した手をとった。 連れて行かれたのは、狭い路地を抜けた先にあるボロボロなアパート。そこが彼の家だった。もう夜は明けているというのに部屋の中はひどく暗い。一足、部屋に踏み入ると、足の裏に布の感触が走った。二見の部屋中には大量の服が乱雑に散らばっていた。 「ミヨシ、結婚したんやって」 二見の声が震えている。先に部屋に入った二見は暗闇の中心でベッドを見つめていた。かと思うと、「ユウくん....」と俺の名を呼び、こちらに振り返って、 「ボクたち棄てられたんやね」 と言った。そのとき俺は、二見が今にも闇に溶け込んでしまいそうだと思った。
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