side ②

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彼は酷い男だった。 大学ではそのルックスや性格、なにより彼の名声が他の誰よりも目立っていた。大学の成績はもちろん優秀で、教授からも周りの学生からも厚い信頼を得ている。それなのに、何故か誰も寄り付かせない。 それが、彼【三好 和也(みよし かずや)】という男だった。 短髪で、メガネをかけていて、シンプルなシャツに嫌味のない程度のブランド品の装飾。太い腕、太い首筋、必要最低限にまとめられたカバン。 皆から囃し立てられても、それとなく誤魔化し、柔軟に躱す。それが彼。 まさに完璧な男だった。 俺は気づいていた。爽やかな笑顔のその瞳の奥、そこには冷めた黒い塊が潜んでいることに。その鱗片を見つけるたび、俺はそれに触れてみたくなった。三好もそんな俺を許し、俺を傍に置き、その塊を俺に明け渡した。それは、俺の中で、最も優越感を得られる麻薬であり(たまもの)であった。 俺は、いつの日か三好の【親友(セックスフレンド)】になった。 周りの人間からは、異色のコンビだと揶揄された。それもそうだ。俺は、三好とは違って、愛想は悪いし、笑わない。勉学にも興味がない。長く伸ばした黒い髪に、左耳には縦に2つ、右耳には1つのピアス穴が空いている。真面目そうに見える三好とは似ても似つかない。そのくせ、俺は三好以外に友達と呼べるような人間は他にいなかった。 どうしてそんな2人が親友なんかに? 傍から見れば当然の疑問だ。 ある日、俺たちはとある店で鉢合わせた。 それがきっかけだった。そこは、大学生が来るにはまだ早い、バーのような場所で、薄暗い照明がワインボトルに反射してカウンターを照らしているような店だった。そんな場所で、オレはバーテンダーとしてアルバイトをしていた。店の扉を開けた三好は、その場に躊躇いもなく足を踏み入れた。三好は俺を見ても焦りもしていない。まさか、ここで大学生が働いてるとは思ってもないんだろう。俺はシャカシャカとシェイカーを降り、彼の前にノンアルコールのカクテルを注いだ。 三好は、グラスを手に取るとカクテルの香りを確かめテーブルに戻し、俺の前へと滑らせた。 「歳の割には大人びてると自負してたんだけどな」 三好は、全てを察したようだった。三好が、俺の隣にいたオーナーに声をかけると、オーナーは慌てて「この人は特別なんだ」とアルコールを提供した。 「ミヨシくんは悪い人やったんやね」と俺が話しかけると、「こんな店で働くお前も大概だな」と言って、俺の作ったカクテルのグラスに自分の酒を注いだ。 「これで共犯だろ?」 昼間はあんなに温厚そうだった彼のひどく悪い顔。それがあまりにも魅惑的で、俺は思わず自分のグラスを一気に空けた。空きっ腹に酒。火照る頭。三好は、赤く染まったオレの耳に触れ、冷たい指先でオレのピアスさすった。この男は、未成年の飲酒なんかよりももっと酷く悪いことをするのだと俺はわかってしまった。この店は、プレイルームが用意されたハプニングバーだった。俺は、この温厚な皮を被った獣の、欲望の最たるものを知りたくなった。 それから、三好と過ごす夜が幾度かあった。大学ではみんなの三好だったのが、その夜は俺だけの三好だった。 三好は俺とは違って、恵まれた人間だった。親の敷いたレールは傷ひとつなく、彼もまたそのレールを難なく歩む実力を兼ね備えていた。整った容姿に、逞しい体格......チンコのデカさは、心のデカさに比例するとはよく言ったものだと、彼のそれを見た時思った。そんな彼の太いそれは、まるで猛毒を塗った牙のようであり、三好のそれを受け入れる度に、俺の身心には塞がらない穴が増えていった。けれど、三好はその痛みすら無理やり快楽に変えてくれるような男だった。 俺にとって唯一無二の存在が三好だった。
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