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宏樹は天守閣の展望台から唐津の街並みを見ていた。十二万に満たない人口の街並みは静かなものだった。海も見え波の音も聞こえそうなくらいだ。隣では実紗も黙って景色を眺めている。
宏樹は遠い時代に想いを馳せた。時代のせいだとしてもあまりにも悲劇である。彼らは天に召され幸せを紡いでいるのだろうか? 宏樹はふと思った。長崎に来て約一ヶ月あまりにも関係の深い場所に呼び出されるように赴いた。
──もしかしたらパウロ三木は寺沢半三郎に会いたかったのではないだろうか? 俺が呼ばれるように西坂の公園に行き、そしてその夜、姉の彩花に会った。自分について来て姉について行った。彼は唐津の地で寺沢半三郎に会いまた彩花に連れられ長崎に帰ってきた。俺は彩花と会い、今度はまた俺に連れられ今いる西坂に戻って来た──
なんていうのは考え過ぎかも知れない。ただそう思わせる何かを宏樹は感じていた。もしかするとパウロ三木は寺沢半三郎に何か想いを届けたかったんじゃないか? 誰にも、しがらみに邪魔されず二人幼少期に戻りあの頃の二人のように会いたかったんじゃないかと……。
しかし、もしそうであったとしても宏樹には届けたい想いが何だったかも分からない。ただこの約一ヶ月は二人のために動いたような気がしてならなかった。
「どうしたの?」
実紗が宏樹を気に掛けた。宏樹は黙ったまま実紗の手を握った。
「だから、どうしたのよ」
実紗は顔を赤らめた。
「実紗に出会えて良かったよ」
宏樹は言葉と握り締めた手の温もりで実紗に想いを届けた。
〈了〉
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