金賞受賞者の誇り

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金賞受賞者の誇り

 楽器が届いた。  早速梱包をほどいてみると、ケースには昔あった有名ジャズフェスのステッカー。  シブい! これなら、何処へ連れて行っても歴戦の勇者扱いしてもらえるだろう。  ケースを開けて楽器を組み立てている所に、バイトのS嬢が出勤してきた。 「この間の話の下北音楽祭、出るんですね。キャッハー、ねぇねぇ、吹いてみて」  私はマウスピースに付いていた竹製のリードをしっかり湿らせ、おもむろに吹きはじめた。 「ムピー キー ホゲー」 ジャイアンでも出せないような音がでた。  私の金賞受賞という誇りは、衣替えの直後改札前で探す交通カードのように、何処へか消え失せていった。  吹いて欲しいと懇願したバイト嬢は、もはや興味をなくしてスマホチェックを始める。  よし、今夜の賄い(まかない)はピーマンたっぷりのチンジャオロースにする。  私は、パワハラにならない程度の仕返しを決意した。  それからひと月、折をみて練習。  しかし、AからオクターブB.Cへのつながりのとき、どうしてもキーというリードミス音が出る。  本番に間に合うのか?    頭の中はジャイアンの声で『ボクの大切なクラーリネット〜〜』がリフレインしていた。
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