2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
金賞受賞者の誇り
楽器が届いた。
早速梱包をほどいてみると、ケースには昔あった有名ジャズフェスのステッカー。
シブい! これなら、何処へ連れて行っても歴戦の勇者扱いしてもらえるだろう。
ケースを開けて楽器を組み立てている所に、バイトのS嬢が出勤してきた。
「この間の話の下北音楽祭、出るんですね。キャッハー、ねぇねぇ、吹いてみて」
私はマウスピースに付いていた竹製のリードをしっかり湿らせ、おもむろに吹きはじめた。
「ムピー キー ホゲー」
ジャイアンでも出せないような音がでた。
私の金賞受賞という誇りは、衣替えの直後改札前で探す交通カードのように、何処へか消え失せていった。
吹いて欲しいと懇願したバイト嬢は、もはや興味をなくしてスマホチェックを始める。
よし、今夜の賄いはピーマンたっぷりのチンジャオロースにする。
私は、パワハラにならない程度の仕返しを決意した。
それからひと月、折をみて練習。
しかし、AからオクターブB.Cへのつながりのとき、どうしてもキーというリードミス音が出る。
本番に間に合うのか?
頭の中はジャイアンの声で『ボクの大切なクラーリネット〜〜』がリフレインしていた。
最初のコメントを投稿しよう!