【第三章】野球と恋、理想と現実

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「マネージャーに?」 「うん……。と言ってもね? 瞳は断ってるのよ? それなのに、川島くんは、何度もしつこく勧誘してるみたいなの」 「……ふぅん。徳川さんが、マネージャーねぇ……」  出来るのか?  あの珍獣に。  おっちょこちょいでキーパーひっくり返すイメージなら出来るけど……。  あと、ベンチでしこたまお菓子食ってるイメージ。 「マネージャー業なら、あの子お手の物だと思うわよ?」 「え?」 「うん、何せ経験者だからね」 「経験者? 野球部マネージャーの?」  意外だな。 「ええ」石井さんは、六個目のハンバーガーを(かじ)りつつ頷いた。 「中学の卒業式の日に、あの子フラれたって話は聞いてる?」 「それは聞いてる」  入学式の日に、彼女があの奇行に走っていた、根本たる要因だ。 「そのフラれた相手……幼馴染の球人くんって人が、どうやら野球部だったみたいなのよ」 「ほぉ」  確かに、言われてみれば、球人って名前は、The野球部って感じの名前だな。 「それで、その球人とやらの応援がてら、中学の時野球部のマネージャーをしてたって訳か」 「そう。で、それを聞きつけた川島が、ここぞと言わんばかりに勧誘をはじめたって訳。正直なところ、瞳、かなり困ってるみたい。しつこくて。断っているのにね」 「……なるほどね」  徳川さんは徳川さんで、苦労してるということか……。  いよいよ、最後のハンバーガーに手を出しながら、石井さんが言う。 「その話に、私も下手に首を突っ込む訳にはいかないから。根気強く、瞳に断り続けてもらうしかないわね……。しばらく断り続ければ、その内、川島くんも諦めるでしょう……」 「……だな」  徳川さんに、根気強く頑張ってもらおう。  彼女の『運』の良さは捨てがたい。  オレとしても、徳川さんの座敷わらしとしての効力は評価しているつもりだ。  出来ることなら、ゴリべー部に所属しておいて欲しいものだ。 「ちなみにだけど」最後のハンバーガーを食べ切りつつ、石井さんが尋ねてくる。 「瞳が野球部へ流れたら……島内くんはどうするの?」 「……どうする、とは?」 「ゴリべー部、そのまま所属するの?」 「…………さぁな。それはその時、考えるんじゃねぇか? 今は分かんねぇ」 「そっか……それもそうね」  石井さんはその後、追加で『照り焼きマックスバーガー』のLセットを頼んでいた。  デザートだそうだ。  この人の胃袋、どうなってんだ?
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