【第三章】野球と恋、理想と現実

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「そんじゃ、そろそろオレは野球部に戻るとするか。お邪魔虫も、やってきたことだし」と、川島がソファーから立ち上がった。  徳川さんが「お邪魔虫?」と首を傾げている。  鈍感だなぁ……この人。  すれ違いざま、徳川さんの肩に手を置き川島が話し掛けた。 「……ちゃんと考えてくれよ」 「いや……それは……」  例の話……? 何の話だ? 「まぁ良いから良いから。ちゃんと考えといて。それじゃあ、また明日ね」 「て、てっちゃんってば! もうっ!」  そう言って、部室から出て行く川島。  すれ違いざまに、「フフン」と鼻で笑われた。  何だそれ、腹の立つ奴だな。  …………。 「随分と、川島(あいつ)と仲が良いみたいで何よりだよ」 「? てっちゃんは友達だからね」 「……そっか、友達か……」  ん? あれ? なんでオレ今、ホッとしたんだ?  するとここで―――― 「やぁやぁ皆さん! やってますかな?」と住友先生が部室へ登場。  オレと徳川さんの微妙な空気感を察したのだろう。  交互に顔を見渡した後、「な、何かあったの?」と尋ねてきた。  オレは答える。 「……別に、特に何もありませんよ」  そう、何もない。  徳川さんが、どこの誰と付き合おうと勝手だ。  まったくもって……オレには関係のない話だ。 ☆ ☆ ☆  それからというものの、川島はほぼ毎日、ゴリべー部の部室に顔を出してきた。  他人事とはいえ、本業の野球部の方は大丈夫なのか? と、心配になるほどに。  今も、オレがゴリべーの特訓をしている後ろでイチャついている。  訳の分からん状況だ。 「うわっ、このキッポーうまっ!!」 「でしょでしょ? それ、期間限定のやつ」 「そうなの? もったいねぇな。こんなに美味いんだから、一年中売れば良いのに」 「ふふふん、それはね? てっちゃん、販売戦略というものがあってですね」 「販売戦略? 何それ詳しく」  …………何の話してんだよ、コイツら……。  川島もくだらねぇ話するくらいなら、本業の方行けよ。  徳川さんも……ああ、腹が立つな。  ここは一言言っておくべきだろう。 「あのさ二人とも、どうでもいい話しに来てんなら帰ってくんねぇ? 正直、邪魔なんだけど」
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