【第三章】野球と恋、理想と現実

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 川島が最近、ゴリべー部の部室に顔を出していたこと。  徳川さんと川島が部室でイチャついていたこと。  気が散ってゴリべーに集中出来なかったこと。  それに腹が立って、一言物申してしまったこと。  ゴリべー部にいる意味がなくなり、帰ったこと。  うん、少なくとも今日あったことは説明出来たように思う。  話を聞き終えた石井さんは……。 「なるほどね……」と、『ビッグマックスバーガー』を齧りながら頷いた。 「想像していたよりも、思い切った策に出たわね……川島鉄平。少々甘くみていたわ……」 「思い切った策……?」 「ええ。コレは私も予想外……」  石井さんも、色々と考えてくれていたんだな。 「川島の奴、そんなに徳川さんのことが好きなのか」 「ええ。川島くんは、瞳にベタ惚れよ」  ベタ惚れか……。  好きとか、嫌いとか……オレには程遠い感情だから、理解に苦しむな……。  どういう感覚なんだろう?  異性を好きになるって。 「で? どうするの?」と、石井さんが尋ねてきた。 「今後、ゴリべー部の活動は。今日は帰っちゃったみたいだけど」 「どうするも、こうするもない。ゴリべーに集中出来ない以上、オレがゴリべー部へ足を運ぶ必要性を感じない。行かないし、退部すら考えている」  ただでさえ、松島さんの強さを肌で感じたばかりなのだ。  何のための部活か分からないような遊びに、付き合ってやるような心の広さも、余裕も、オレは持ち合わせていない。  オレの中での最優先事項はゴリべーだ。  それは絶対に変わらない。 「その結論だけは、焦らないでほしいわ」  石井さんが言う。 「話を聞くに、川島くんとのやり取りを、瞳は間近で聞いていたのでしょ? となれば確実に、瞳が何かアクションを見せているはず」 「アクション……」 「あの子、バカだけど……。そういうことに無頓着ではないわ。あなたにとってゴリべーは大切なものである、という認識は、ちゃんとあの子の中にあるはずだから……。大丈夫、その辺は安心して」 「でも……」 「分かった。なかなか納得は出来ないわよね? でも、明日、瞳の話を聞いてから、結論を出しても遅くないんじゃない?」 「徳川さんの……話しに?」 「ええ」石井さんは頷いた。  四個目のハンバーガーに手をつけながら。 「もしも、今日の経験を経て、瞳が何も動こうとしないような子であるならば……それが判明した時に――――縁を切りなさい」
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