【第三章】野球と恋、理想と現実

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 石井さんは、強い口調で続けた。 「申し訳ないけれど、その場合……私もそうさせてもらうわ」 「いやいや……石井さんが、何もそこまでしなくても……」 「あなたがどれ程、ゴリべーを大切に思っているかなんて、あなたを遠目で見ている私ですら理解出来るもの。友達と呼んでいる人の『大切なものが何か理解できないような人』とは、私、絶対に仲良くなんて出来ないわ」  ……強い口調でそう言う石井さんから、オレは目が離せなかった。  何も言葉を返せない。  すると、フッと石井さんが笑った。 「……少し、驚かせてしまったみたいね。だけど安心して、瞳は絶対に、そういう人間じゃないと……私は、信じているから」 「信じる……」 「なんてったって、あの子は私の友達だから。私……人を見る目はあるつもりよ」 「…………分かっ――」  するとここで、ピロン! とオレのスマホが音を立てた。  メッセージだった。  徳川 瞳さんからの。 『朝陽くん! 今日は本当にごめんなさい!  ゴリべー邪魔されたら怒るよね?  てっちゃんには、もうゴリべー部には来ないでって約束してもらったから!  絶対絶対に来ないでって約束したから!  だから、明日からまた、ゴリべー部に顔を出してくれると、嬉しいな。  返事、待ってます』  …………。 「どうやら……明日を待つ必要もなかったみたいね」 「……うん」 「ね? 私の友達、そこまでバカじゃなかったでしょ?」 「どうやら……そうみたいだな」  オレは返事を書く。 『了解』と、一言。  石井さんの、人を見る目は、信用に値するようだ。 「ひとまず、あなたのゴリべー部退部問題は解決出来たみたいね」 「まぁ……とりあえずは、な」 「でも……根本的な問題は、解決していないわ」 「…………川島か」 「ええ」瞬く間に、Lサイズのポテト二個を食べ切った石井さんが頷く。 「ところで島内くん、瞳から聞いてない?」 「何を?」 「やっぱり言ってないのね……あの子。まぁ……断ったし、言う必要もないって判断なのだろうけど……」  そういえば、川島に何か言われてたな。  確か……『例の件、考えといてくれ』とか何とか……。 「実はね?」石井さんは言う。 「瞳……川島くんに、『野球部のマネージャーにならないか?』って誘われてるみたいなの」
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