キツネは嫁入りしたくない

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「雨が上がったら、虹が出ます。そして嫁入りが始まります。 私は嫁ぎたくない。隣の村に恋した相手がいるのです」 花嫁衣裳の女性が語り始めた。 「へえ、この時代に政略結婚とかですか?」 「はい、真太郎(しんたろう)さんは無縁そうで、うらやましいです」 「なんで俺の名前とか知ってんの?」 「秋口(あきぐち)さんの家は田畑が豊富で、村でも有名ですから。 やはり継いで農家になるのですか?」 「いや、普通の高校を受験するつもり」 「長男なのに?」 「うち、そういうのゆるいから。親父は好きにしろって。 だから、安易な理由で決めちゃったよ」 「あんい?」 「片思いしてる女の子と同じ高校にして、追っかけてみようって。 我ながら執念だなあ、でもさ、彼女がいない学生生活は嫌だ」 「素敵です、それが幸せだと思います。応援します」 「あ、どうも。というか、あなた、誰ですか?」 この小さな村において、知らない顔は無い筈だ。 しかも今日、結婚式があるなら、村中が知っているもんだ。 「私は、山奥に棲むキツネです」 「はいぃっ?」
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