第1話 プロローグ

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第1話 プロローグ

 あれ? さっきから揺れてる?  翠は区切りまで弾いて、鍵盤に置いた手を止めた。その時、 「翠ちゃん! ピアノの下に隠れて! 地震!」  ピアノ講師である北垣早織(きたがき さおり)が部屋に飛び込んできた。翠は慌ててグランドピアノの下に潜り込む。早織が傍らに潜り込んだ時、揺れは一段と強くなった。 「ここでこれだけ揺れるって、結構大きいね、地下だから感じにくいんだけど」  幸いそれから程無く揺れは収まった。ピアノ教室である地下室は家具もなく、被害はない。停電も免れているようだ。 「翠ちゃんはここに居て。テレビ見て来る。また余震があるかもだから揺れたらここに隠れてね」 「はい」  地震か…。ここ、四国地方の海岸沿いでも、年に何回かは揺れる。今回はいつもより大きな気がするが、最近は全国のあちこちで起こっているから不思議ではない。地震で道路が渋滞とかしたら、お父さんとお母さん、ここに来るの、遅れるかな。って言うか、そもそも今日の花火大会、出来るのかな。ホームページにはまだ出てないかな。翠はピアノの傍らにあるリュックに手を伸ばし、スマホを取り出した。  秋丸 翠(あきまる すい)の感想はその程度だった。この春、高校2年生になる少女の感覚なんて、所詮はそんなものだろう。  だが本当の激震はその後に起こったのだ。心身ともに薙ぎ倒されるような激震が。
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